「死後の生」とは一見矛盾した言葉に思われるが、人の心魂(霊的個我)は死後も言わば生きているので、何らここに矛盾はない。今回は、人が死後、どのような体験をするのかを、シュタイナーによって少し詳しく見てみたい。人智学周辺にはこのテーマの本もいくつか存在するが、ここでは、エイドリアン・アンダーソンAdrian Andersonの『ルドルフ・シュタイナー・ハンドブック』(邦訳はない)といつもの西川隆範さんの『事典』を参考として述べる。
愛する魂への呼びかけ
死を目前にした人は、前もってそれを知っており、準備する。その様な人は、死後、かつて愛した人に会うために、意識的にか無意識的にか、呼びかけを行う。そして、実際に、死の直前に彼(女)らは、守護天使と共に現れる。
3日間の記憶像
死ぬ時、心臓で輝きが発した後、肉体と個我・アストラル体・エーテル体との関係が解かれ個我・アストラル体・エーテル体は頭を超えて出て行く。直後、人生全体がパノラマのように心魂の前に現れる。この際の記憶像に対しては、喜びや苦痛を感じることはない。この記憶が個我の実際の実質を形成し、死後、エーテル体からアストラル体へ移る。その内に、エーテル体は、宇宙エーテルに解消される。これに3日間を要する。
覚醒
エーテル体を脱ぎ捨てると、人は自分が分散し空間に広がると感じる。地上で外界であったものが内面になり、内面が外界になるのである。
人生のパノラマを振り返った後、一種の眠りが訪れ、その2,3ヶ月から数年後、心魂(アストラル)界に目覚める。
そこには、生前の行為の記録、カルマの帳簿を持った人物がおり、ヨーロッパ人にはモーセとして、またキリスト衝動に結ばれるとキリストとして体験される。これは日本人であれば、閻魔大王であろう。
霊我(真の自我)が星のように輝きだし、高みに登っていく。心魂は、これへの憧れを抱く。しかし、それを再び見いだすにはさらに多くの体験が必要である。まばゆく輝く存在が現れ、心魂の周りに動き回る多数のイメージを心魂に気づかせる。心魂は、心魂界を旅するために、そのイメージの意味を解釈しようと努力する。
心魂の浄化
死後、人には欲望が残るが、肉体が無いためそれを満足させることができない。地上の欲望が強いほど、それが満足されない苦しみは強くなる(いわゆる地獄の状態)。地上的欲望、感覚的物質的属性は、より高次の領域に持っていけないので、それらを脱ぎ捨て、心魂を浄化する必要がある。
心魂界では、地上生を振り返ることにより意識が生じ、それなしで死後に意識を発展させることはできない。
心魂界では、臨終から誕生へと遡って地上の生を再体験する。その際、自分がなした行いにより相手が受けた痛みや喜び、思いを自分で体験することになる。これにより生前に行った行為の均衡・償いを来世でなそうという衝動が生まれる(カルマ的作用となる)。
この心魂界の旅は、地上で生きた期間の3分の1に相当する期間を要するという。つまり75歳まで生きれば25年間かかることになる。人は、毎日眠っている時に、霊界に参入しその日の出来事を振り返っているが、死後は、この行いをまとめて再度行うことになる。一般的に1日の睡眠時間が24時間の3分の1程度なので、この期間も3分の1になるということらしい。
7つの心魂界
死後に魂が旅する世界は、霊的領域としての宇宙である。それは、現代の太陽中心の宇宙ではなく、古代世界で考えられていた地球中心の宇宙に近いという。従って、7つに分かれている心魂界で先ず進むのは、下部の4領域をなす月の領域である。ここでは、感覚的印象への憧れ、地上的思考への憧れ、願望、物質的身体の生への憧れが克服されていく。
この下部の領域が、キリスト教のいわゆる煉獄(カーマロカ)、魂の清めの領域、あるいは天国にも地獄にもいけない魂のいる場所である。
次の第5領域は、水星天で、ここでは、共感や思いやりがより強まる。心魂は、様々な他の存在の影響を受け、また周囲を照らし始める。周囲から孤立しないためには、倫理的特性を発展させていなければならない(それがなければ暗闇の中で孤独に過ごさなければならない)。
第6領域は、金星天で、ここでは、心魂の内的生が輝き出で、他のものを照らしだす。周囲から孤立しないためには、聖なるものを敬う宗教性が必要である。
第7領域は、太陽天で、高貴なものとなった心魂は、周囲の他者のためにその輝きを放つ。最後の精妙な物質性が克服される。ここで必要なのは、人間の霊性の内及び太陽に由来する神性-太陽神、キリストに関連する-への敬愛の心である。
キリストとルチファー
太陽天(月と太陽を含む内惑星の世界*1)までが心魂界で、それより上(外惑星及び恒星界)が精神界となる。ここまで清めることができなかったアストラル体の一部は心魂界に残るが、それは、地上界には悪い影響を与える。(つまり、地上でひどく唯物主義や利己的享楽に染まり、心魂界でそれらを浄化できない魂が多いほど、地上世界は荒れる-騒乱や自然災害等が起きる-ということであろう。)
現代人は、死後、太陽領域までしか意識を保てない。その先でも意識を保つには、太陽領域との関係を維持することが必要である。太陽領域で得られた力が、来世でエーテル体を正しく構築する。死者は、太陽領域でキリストとルチファーに出会う(死者にはこの両者を区別できない)。太陽までは、キリストが導き、その先は、ルチファーが導く。
(死者の旅は、まだ続くが、以降は次回に譲る。)