k-lazaro’s note

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「二人の子どもイエス」とは ⑭

彫塑作品に見る二様の誕生の光景

 クラウゼ・ツィンマーは、『絵画における二人の子どもイエス』の中で、ルカとマタイに基づく「二様の誕生の光景」を描く作品を様々掲載しているが、今回は、彫塑作品を取り上げよう。
 先ず、ヴェローナ〔イタリア〕のサン・ゼーノ教会の扉の彫塑作品である。

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 ここでは、左側の一番上がマタイのイエス誕生の光景で、左中段は、左から受胎告知、エリザベト訪問、ルカの生誕となっている。ルカのマリアは、出産直後らしく、まだ横たわっている。

 次は、アレッツォ〔イタリア〕のの内陣のレリーフ板である。

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 左では、聖家族の他に、雄牛とロバと二人の産婆がいる*1ビザンチン様式のルカの場面で、右は、大きな王冠を被り悠然と座っている威厳のある横向きの大きな女性である。彼女の前にはマギ達が来ており、彼女の座っている子どもの頭の上には星がある。彼女の玉座の支柱と、また同様に彼女の足は、その尾が椅子に巻き付いている怪物の上に置かれている。
 両者のマリアを比較すると、ルカのマリアが若々しくまた優しげであるのに対して、マタイのマリアは威風堂々としており、両者の微妙な違いが窺えるだろう。

 次は、ニュルンベルク〔ドイツ〕のフラウエン教会の正面玄関にある後期ゴチック様式(14世紀終わり頃)のティンパヌム(玄関の上部)レリーフである。

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ここでは、

 単一つのまとまった画面の中に二様の誕生が描かれている(枠あるいは飾りによって分けられていない)。横になっているマリア-その上で羊飼いへの告知が行われている-に向かって、籠の縁に寄り掛かった活発な子どもが手を伸ばしている。その隣では、王冠を被ったマリアが、椅子に座って王達を迎えている。彼女の後ろで二人の天使が天蓋を持っており、星がその上にある。

 なお、著者は指摘していないが、二人のマリアを囲む布地は、ルカでは青色、マタイでは赤色となっており、両者の違いが強調されているのかもしれない。
 彫塑作品については、

他にも、しばしばこの上なく独創的な様式で印象的な多くの二様の描写を、柱頭、フリーズ(壁面上部)、洗礼盤などの建築物の彫塑表現に見ることができる。地理的にその範囲は、南から北にまで広がっており、ピストイア〔イタリア〕にあるピサーノの人物像のある説教壇やスプリットのジュピター神殿のレリーフや、あるいは豊富な実例を見ることができるスウェーデンゴットランド島の物などを含んでいる。

 このように、彫塑作品においても、絵画と同様に二つの様式の誕生の光景が存在し、しばしばそれらは並列されている。この二つを、時間の経過の中で、その前後の光景と捉えることも可能であるが、そこにある微妙な違いは、別の解釈を可能とする。
 二人のイエス等という考えは、当時においては、命に関わる異端的教説であり、公にすることはできなかった。それが、これらの二様の誕生図が曖昧で微妙な差異をもって描かれていることの理由である。それは秘密ではあったが、見る目のある者には明らかであったのである。

*1:福音書の記述にはないが、マリアの出産のためにヨセフが産婆を呼んだとする伝承が伝わっている。イエスは、上と下で2回描かれている。