心臓の幾何学
心臓がポンプではないなら、それは何なのだろうか? 何をしているのだろうか?
コーワン博士は、「それを知るには先ずその形から探ってみる必要がある」として、心臓の形について解説していく。
心臓は、「ハート型」ではない。解剖した人体の心臓を見ると、それは組織の塊であり、器官ですらない。脂肪の中の筋肉。心臓は何ら特殊なものではない。
心臓は、特殊な中間筋(人体では他には子宮のみ)でできている。それ自身の葉状部のある4つの弁をもっており、心臓の4つの部屋(上の2つの心房と下の2つの心室)のそれぞれの厚さは異なる。
自然と人間に繰り返し現れる形はスパイラルである。特に、その成長の要素が黄金比(小数点では1.618と表され、phiにより示される)である多くの「黄金」スパイラルがある。 「黄金」というのは、短い部分と長い部分の長さの比が、長い部分と全体の長さの比に等しくなるからである。フィボナッチ数列(“1,2,3,5,8,13・・・”のように、前の2つの和が次の数となる)の隣接2項の比は、黄金数に収束する。
黄金スパイラルは、極微ではDNA分子に、極大では銀河に見ることができる。オウムガイの殻、ヒマワリの頭、枝に成長する葉、バラの花弁等々に観察できる。黄金スパイラルは、ギリシャのパルテノン神殿で見ることができ、フィボナッチ数列は、ベートーベンの第5交響曲の初めに聞くことができる。
同様に、人体には、数のパターン、幾何学図形、スパイラル、フィボナッチ数列を見ることができる。歯の配列を考えてみると、赤ちゃんには5つの乳歯の4セットがある。人は、7歳頃から始めて21歳頃までに、8本の歯の4セットを完成させる。
おそらく、幼い子どもが、7歳頃までは、特に強く5音音階のペンタトニック共感するのは偶然ではない。実際最も効果のある子守歌はペンタトニックである。大人は、夢を見るようなペンタトニックの世界から離れ、オクターブ、8音音階に至る。
あるいは、肩から指先までの8つの骨の関係、あるいは尻からつま先までの骨の関係を見ると、それらの骨の長さは、西洋のオクターブ音階の音符の間にある音程と同じ比率である。
あるものの形を理解することは、その機能を理解する上で大変重要である。例えば、卵は、その生き物の種により形が違う。より円錐形であったり、球に近かったりする。巣を崖に作るような鳥では、より円錐形になる。転がって落ちないためである。どちらにしても、卵は外部からの衝撃に強い。
ここでコーワン博士は、第3の研究者の研究を紹介していく。それは、サンフランシスコのヴァルドルフ(シュタイナー)学校の教師、彫刻家にして哲学者のフランク・チェスターFrank Chester氏である。彼は、2000年にルドルフ・シュタイナー大学のクラスをもってから、特にプラトンがすべての自然現象の基礎と考えた「プラトン立体」に興味を持つようになった。この5つのプラトン立体は、唯一、「規則正しい」凸面立方体である*1。「規則正しい」多角形は、等角(すべての角が同じ角度)で等辺(すべての辺が同じ長さ)の2次元図形であり、規則正しい立方体(正多面体)は、同じ角度、同じ辺の3次元の形である。
チェスターは、人智学の知識により、シュタイナーが、胸の中の箱をイメージしたものの中に、7面体の心臓を描いていたことを知っていた。彼は、幾度の試行の後、これを造形することができた。チェスタヘドロン(同一の面で12の縁と3つの異なるシンメトリーを持った、4つの正三角形とカイト型の4辺形による7面体)である。
これが、心臓の形と機能についてのダイナミックな洞察を生んだ。チェスターの次のステップは、シュタイナーが示唆した、この7面体を、それを入れることのできる最も小さな箱の中に置くことであった。頂点を下に向けて、正6面体の箱に入れたのである。頂点は、立方体の中心には落ちず、少し外れている。中央から36度ずれて座っているのである。これは、人間の心臓が正中線からはずれて位置しているのと同じ角度である。
チェスタヘドロンの縁を回転させると、心臓の部屋で一番大きい左心室の空洞と正確に合致する。36度の角度を持っているのはこの左心室なのである。
チェスターは、更にワイヤーで造ったチェスタヘドロンを水中で回転させてみた。すると回転軸の周囲に沿って渦が発生したのである。一度渦ができると、水の中に、チェスタヘドロンの側面に付着しているように見える、一種のネガティブな空間が形成された。
Frank Chester - The Chestahedron - The Wonder of Seven - YouTube
1 Frank Chester at the Green Meadow Waldorf School Oct 2009 - Bing video
チェスター氏の探求は更に先に進む。(④に続く)
*1:すべての面が同一の正多角形で構成されてあり、かつすべての頂点において接する面の数が等しい凸多面体のこと。正多面体には正四面体、正六面体、正八面体、正十二面体、正二十面体の五種類がある。