k-lazaro’s note

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心臓はポンプではない ④

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回転するチェスタヘドロン

 引き続きトマス・コーワン博士の『人間の心臓、宇宙の心臓』から心臓の新たな世界を探求する。
 前回は、フランク・チェスター氏のチェスタヘドロンという7面体が心臓の構造や機能を解明する鍵となることに触れた。チェスタヘドロンを水中で回転させると、回転軸の周囲に沿って渦が発生したのである。一度渦ができると、チェスタヘドロンの側面に付着しているように見える一種のネガティブな空間が形成された。・・・

 チェスターは、それに付いた付属物とともに回転するチェスタヘドロンの形を造形してみた。彼は、この付属物が、水の中で回転させると、それ自身の渦を造ることを見いだした。しかしそれは、チェスタヘドロン本体が造る、より垂直的な渦よりもより水平的な形となった。より水平的なこの渦自体は、人の心臓の左心室に付着した右心室の形に非常に似ていた。

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左がチェスタヘドロン、右が心臓の断面

 チェスターは、更に、回転するチェスタヘドロンの、その最も厚い部分の付属物を含む断面をとってみた。驚くべきことに、それは、右心室と左心室の断面に似ていたのである。壁の厚さと、空洞のサイズは同じ、心室の付着の角度はほぼ同じであった。

 心臓は、シュタイナーが予言したように、キューブの中の7面体なのだろうか?

 解剖学では、心臓は筋肉であり、その厚さにはバリエーションがあると習う。しかし、筋肉の層がいくつあり、また心臓の底(チェスタヘドロンの頂点がキューブの底と当たる点)がなぜとても薄いのかの理由は教えられない。頂点は1層の筋肉の厚さである。ここは、左心室の出口、動脈弁の反対側にある。ポンプ説によれば、もっとも圧力、ストレスがかかっている場所である。最大の圧力の場所がこのように薄いというのは可能なのだろうか。
 チェスターは、研究を進める中で、スコッロランドの19世紀のナチュラリスト、ジェームズ・ベル・ペティグルー James Belll Ptrigrewの解剖の研究にであった。彼は、心臓の異なる場所で、筋肉の層の数が最小の1(頂点=底の部分)から7までと異なることを見いだした。チェスターは、水の中の回転するチェスタヘドロンが造る水のコーン(円錐形)が描く角度で、回転するチェスタヘドロンを紙の層で巻き付けてみた。チェスターが、的確にその形を巻き付けることができたのは、即ち心臓のいろいろな部分で筋肉の層の厚さを再現できたのは、最大の厚さのところが7層で、頂点が1層であった。

 血液は、静脈を通って心臓に戻ってくる。それの主に垂直方向の流れは、右心室の上の小さな部屋、右心房に帰ってくる。

 ルドルフ・シュタイナーが、心臓がポンプでないとする場合、何に似ているかと問われた時の答えは、水(油)圧式ピストン(水撃ポンプか?)が近いというものであった。それは、流水の中に置かれる器具である。それは、その開閉機構の後ろに一時貯水のタンクをもっている。門の流入側で圧力と容量が高まると、真空あるいはネガティブの圧力が、門から遠いサイドに造られる。門をはさんで一定の圧力差が生まれると、門は開き、液体は推進力を得て、スロープを昇ることができる。
 心臓でも同じ様なことが起きる。静脈の血は、右心房に流れてくる。右心房の圧力が高まると、(三尖弁の)門が開き、血液は右心室に入ってくる。しかし、起きるのはこれがすべてではない。チェスタヘドロンが示しているように、右心室に達した血液の流れは、次の門(肺動脈弁)に入っていく前に渦に変化する。同時に二つのプロセスが起こっているのである。第1は、水圧式ピストンによりモーメンタム(はずみ)が増大する。しかしそれと同時に、流れの形は、ラミナール・フロー(層流:物体のまわりに実現される規則性の強い流れ)から渦に変化する。更に、心臓の右側の活動は、右心室から水平方向にある肺に進む間に、静脈の垂直方向の層流を、渦の水平的な流れに変えるのである。
 そして血液は、肺を通って再び毛細血管へと入っていく。肺の毛細血管の高い抵抗の中を血液がどうして流れていけるのかについては、納得できる説明はほとんど存在しない。血漿に保持され、その直径は毛細血管とほとんど同じ血液細胞を伴う粘性の高い血液が、広大な肺の毛細血管網を抵抗なく流れているのである。この血液が1マイル(1609m)にも及ぶ旅をするのを、右心室の小さなポンプの圧力に課すことは可能であろうか。

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 血液は、毛細血管に達した後、また水平方向で、左心房に戻ってくる。それは、僧帽弁の背後の、流れる血液のエネルギーを蓄える一時的な貯蔵所としての役割を持つ。左心房で圧力が高まり門が開くと、左心室へと流れていく。すると、チェスタヘドロンが示すように、左心室は、この層流を垂直方向の渦に転換する。この渦は、造られた圧力と一緒になって、大動脈弁を開き、動脈を通って身体の他の部分へ解放される。
 心臓はポンプではなく水圧式ピストンであるとするもう一つの証拠は、心臓収縮期の大動脈弓(上の右図参照)のふるまいである。もし心臓がポンプであるなら、心臓が血液を大動脈弓に押し出した時、その力強い押し出しの度に、柔軟性のある弓は真っ直ぐになるはずである。庭のホースに水を流せば、その圧力でホースが真っ直ぐになるように。しかし、逆に、この収縮期に、大動脈弓は内側により急角度で曲がるのである。
 収縮期に大動脈弓が内向きに曲がることを説明できるのは、ネガティブの圧力しかない。そしてこのネガティブの圧力は、水圧式ピストンによって造られる吸い込みに似ているのである。この大動脈弓の不思議な振る舞いは、圧力により押し出された血液というより、心臓が、ネガティブの圧力、吸引を生み出していることを示している。心臓が行っているのは、圧力を造っているのではなく、血液のモメンタムを増大させるための吸引である。

 心臓はポンプではないとすると、その役割は、渦を造ることである。(これは後にまた探求される)(続く)