k-lazaro’s note

人と世界の真の姿を探求するブログです。 基盤は人智学です。

「二人の子どもイエス」とは ㉒

f:id:k-lazaro:20220131105935p:plain


エスゾロアスター

 「二人の子どもイエス」については、これまで、イエスの誕生の絵に二つの種類があり、それが異なる二つの家族を描いていることを述べてきた。二つの種類というのは、羊飼い達がイエスを礼拝するものと、マギ(王)達が礼拝するものの二つであり、普通は、この二つの礼拝は、時間を隔てて一人のイエスに対して行われたと解釈されているが、二つの絵をよく見比べると、マリアやヨセフ、さらには、イエスの描き方が異なっており、明らかに別々の家族と考えるしかない場合があるのである。
 また二つの家族がいたということは、聖書自身に、二つの異なるイエス家系図(ルカとマタイ伝)が記述されていることでも確かめられることも見た。ルカ伝の述べるイエスは、ダヴィデの子のナタンを祖先としており、マタイ伝のイエスは、ダヴィデの子のソロモンを祖先としているのである。ソロモンは王の系統であり、ナタンは祭司の系統でもある。
 このことから、マタイ伝のイエスは、王の系統で、ソロモン・イエス、ルカ伝のイエスは、祭司の系統でナタン・イエスと呼ぶことができるのである。

 二人の子どもイエスの肉体的系統は以上であるが、その肉体に受肉したのはいかなる魂あるいは個我であろうか。実は、ヘラ・クラウゼ=ツィンマーは、そのことを『絵画における二人の子どもイエス』の序言で次のように既に語っている。

 二人の子どもは、そのうえ、この関連において一見奇異に思われる名前と関連付けて考えられている。確かに、それは、イエスの捉え方を小さく見せるか、彼の特殊性を平準化してしまうかのように見える。しかし、それを仔細に探求していくと、それは逆であることが分かってくる。この関連の“包括的”知識は、ただ関連する作品を研究することで得られうるということは、今一度強調しなければならない。だが、以下の文章で、二つの名前が、同時にその「本質」において、子どもイエス達を性格づけていることが既に分かるだろう。
 ナタン・イエスブッダと、ソロモン・イエスゾロアスターと関連づけて見られると、それにより同時に、愛存在と知恵存在-キリスト教以前のその最高の代表者は、ブッダゾロアスターの中で私達の前に立っている-が表される。

 私たちは、一般に、紀元前6世紀にペルシア地域で、アフラ・マズダ(あるいはオルムズド)、「太陽のエーテル・オーラ」を崇拝すべき至高の存在として、アングラ・マイユ(あるいはアーリマン)を闇の敵対者として語る太陽の教義を宣教した人物をゾロアスターとして知っている。光と闇の二元性とそれらの間の闘い(そこに人間は関わらなければならない)が、ドラマチックにこの神々の教えを満たしている。それは、ゼンドアヴェスタのガーターに記録されている。

 これはシュタイナーの認識に基づくのであるが、シュタイナーは、ソロモン・イエス受肉した魂(個我)は、ゾロアスター教の開祖とされるゾロアスターであると語っているのである(上にルカ・イエスとの関連でブッダの名がでてくるが、こちらの場合、ブッダの生まれ変わりという意味ではない)。

 マタイ・イエスを礼拝するために東方から来たマギとは、ゾロアスター教の系統に属する者達に他ならない。マギとは、王ともまた博士とも呼ばれるが、古代の神秘的英知を引き付いた者達なのである(マギという言葉は魔法Magicにつながる)。

 クラウゼ=ツィンマは、このゾロアスターザラスシュトラ)について次のように述べている。

 私たちは、一般に、紀元前6世紀にペルシア地域で、アフラ・マズダ(あるいはオルムズド)、「太陽のエーテル・オーラ」[1]を崇拝すべき至高の存在として、アングラ・マイユ(あるいはアーリマン)を闇の敵対者として語る太陽の教義を宣教した人物をゾロアスターとして知っている。光と闇の二元性とそれらの間の闘い(そこに人間は関わらなければならない)が、ドラマチックにこの神々の教えを満たしている。それは、ゼンドアヴェスタ[2]のガーターに記録されている。
 この既に歴史的に把握されうるザラスシュトラゾロアスター)の背後には、しかし、「ギリシア人たちがトロイ戦争の5000年前に既に存在していたとする」(R・シュタイナー、『マタイ福音書』第1章)、非常に多くのザラスシュトラ存在、人物が立っている。この原初の指導者は、大いなる犠牲のもとに、ザラスシュトラ、ザラトス、あるいはナザラトス、ギリシア語では「ゾロアスター」(それは「黄金の星」を書き直したもの)などと呼ばれる様々な再受肉を通して、人類とともに生きてきたのである。古代の賢人達において、彼は、人類の天空に輝く、導きの星として常に知られていたのである。

 帝政ローマ期のギリシア人著述家プルタルコスは、「イシスとオシリスについて」(第46節)の中で、「トロイア戦争の5000年前に生きていたと言われるマゴス僧のゾロアストレス」と述べている。またローマの軍人、博物学プリニウスは「博物誌」(ⅩⅩⅩ3-4)で、アリストテレスとエウドクソスがザラスシュトラプラトンの死より6000年前の人であると考えていたと述べている(プラトンは紀元前347年に没したとされる)。これらは、伝説上のザラスシュトラと言える。
 歴史上のザラスシュトラの生年についても、「確認できるものはほとんどなく、紀元前1千年から紀元前600年の間を揺れ動いている」という(前田耕作『宗祖ゾロアスター』)が、シュタイナーによれば、伝説上のザラスシュトラは、その前世ということとなる。ザラスシュトラは、何度も転生し人類を導いてきたのである。
 また前田耕作氏は、ザラスシュトラとイエスを結び付ける伝承について次のように記している。「マタイ伝の3博士は、ゾロアスターキリスト教と結び付ける蝶番の役割を果たした・・・救世主の誕生を予言したのはゾロアスターその人というものであった。・・・それは、ゾロアスター教の黙示録的な伝承にそうものであった。ゾロアスターの精液が水底に沈められていた湖で水浴をした3人の娘たちが千年ずつの間隔で次々と処女のまま懐胎し、末世を救済する立役者を生んだというのだ。処女懐胎と救世主の誕生は、こうして難なくゾロアスターキリスト教へと導き入れたのである。」
 更に、最近の研究によってゾロアスターについては新たな説が生れている。アメリカの研究者メアリー・セットガストは、ゾロアスターとは聖職者の位階を表す一般名称の可能性があり、そうであれば前述のような「古い文献において、歴史的ザラスシュトラが一人以上いたことが示唆されてきたことにも説明が付くかもしれない。」としている。また、近年の考古学の発掘調査結果を踏まえ、イランの先史時代における紀元前6000年期中頃に起きた遊牧から定住、農耕、牧畜への以降は、この時期のザラスシュトラによる経済改革によるものであると彼女は指摘している。(『先史学者プラトン』メアリー・セットガスト著、山本貴光吉川浩満訳、朝日出版社2018年)

 また、

 彼の教えは、・・世界を野生とカオスから救い出すために、オルムズド、聖なる太陽の力と結びつくよう人々を促す、むしろ活動的な道である。従ってこの流れから、大地を耕し(農耕)、野生の動物を飼育する最初の努力が生まれた。そこにおいてアーリマンが働く暗黒、衝動的な野生状態は、浄化され、制御されなければならなかった。しかしゾロアスターは、なお他のことも教えた。即ち、偉大な太陽のエーテル・オーラが次第に近づいてきているということである。彼は、神の地球への道を覆っている秘密に他の誰よりも近かったのである。

「そしてゾロアスターは、人類に、神的・霊的領域から偉大なるオーラ、光存在がいつかやってくる、そしてその光存在の魂は太陽ロゴスとなることを約束することができた。」(シュタイナー『マタイ福音書』第12講義)

 ルドルフ・シュタイナーは、紀元前6世紀の「古代カルデア」におけるこの受肉、ザラトスあるいはナザラトスについて、彼は、カルデアの賢人とマギだけでなく、バビロン捕囚の間に接触をもったヘブライ人の最も賢い人々を秘密の弟子としてもっていたと語っている。彼の死後600年間を通して、「カルデアの秘教学派は、ザラトスあるいはナザラトスという人物の中のゾロアスターに由来する伝統、儀式、祭儀に満ち、・・・そして秘教学派の人々は自分たちの偉大なる教師及び指導者の次の受肉を切望した。なぜなら、彼らはゾロアスターが600年後に再来することを知っていたからである。そしてその時が迫ると、三人の使者、三人の賢いマギが東方の国から遣わされた。彼らは、ゾロアスターの再受肉が起きる場所に、ゾロアスター尊いその名前そのものである彼らの星が、彼らを導くと知っていた。」(ルドルフ・シュタイナー『マタイ福音書』第6講義)

 聖書(マタイ伝第2章)のギリシア語原書ではμάγοι マゴイ(マギと同義語のマゴスの複数形)であるが、「占星術の学者達」「博士達」等と訳される。聖書に人数等の記述はないが、幼子イエスを拝み、乳香、没薬、黄金を贈り物として捧げた(マタイ2:11)とされるので、この贈り物の数から「三人」とする考えが後に定着した。また、西洋では7世紀から次のような名等が当てられている。

 メルキオール Melchior  (黄金。王権の象徴。青年)

 バルタザール Balthasar (乳香。神性の象徴。壮年)

 カスパール   Casper    (没薬。将来の受難である死の象徴。老人)

 ゾロアスターの霊統に属す賢人たちが、外的世界の人類指導の秘密、社会的領域における秩序や管理についても手ほどきを受け、しばしば偉大な領主あるいは王侯の使命を持っていた人々でもあった・・・

ゾロアスターは人の周囲に存在するもの、外なるものを教示する使命を有していた。そこで例えば彼は、アムシャスパンド[9]、大いなる神霊について語った。彼はそれについて6柱としたが、本来は12あり、他の6柱は隠れているのである。このアムシャスパンドは、人の器官の形成者、構築者として外から働きかけるのである。ゾロアスターは、人の感覚器官の背後にいかに人類の創造者が立っているかを示した。ゾロアスターは、我々の外側に見出される偉大なる神霊、諸力を示したのである。ブッダは、人の内側で働く諸力、人間の中にある隠れた諸力を教示したのである。」(ルドルフ・シュタイナー『ルカ福音書』第5講義)

 このようにゾロアスターは、幾度も転生を繰り返して霊的能力を育み、人類の指導に身を献げてきた偉大な教師であった。その個我は、イエスが30歳となり、ヨルダン川で洗礼を受け、神的ロゴス(キリスト)がイエスの体に受肉した際に、その体を譲り渡すこととなる。ゾロアスターのような優れた個我こそが、神的ロゴスを受け入れることのできる肉体を形成することができたのである。
 しかし、それは、ゾロアスターのみで行うことができたのではない。それは、ナタン・イエスがいてこそ可能となったのである。
 また、ゾロアスターの個我は、イエスの体を離れた後も、当然、人類の霊的進化に関わってきている。彼の、秘教における呼び名は、「マイスター・イエス」とされる。