k-lazaro’s note

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ソロヴィヨフの反キリストに関する予言 ②

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 前回に続き、ソロビヨフの「反キリストに関する短編物語」の後半を紹介する。前半は、あるずば抜けて有能な若者が、自分こそ真のキリストであると考え天の啓示をまったが、ついに得られず、その絶望の中で魔物にであい、自分の真の姿に目覚めるまでであった。後半で反キリストは、いよいよ本領を発揮し世界皇帝となる。

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 断崖での衝撃的体験があってから、彼は一変した。霊感が泉のように吹き出し、神がかり的スピードで一冊の本を書き上げた。『世界の平和と安寧への自由な道』というタイトルのこの本は、世のあらゆる争いに終止符を打つものだった。

 古来からの伝統と象徴への崇敬が、社会的・政治的要求にかなう大胆な革命思想と見事に融和されていた。すべての思想の自由、あらゆる神秘主義への深遠な理解、絶対的個人主義と人類共有の善への熱い願い、指導原理としての高尚な理想主義と現実的打算とが、一つに溶け込み、知識人も労働者も容易に全貌を理解し、受け入れられるような天才的筆致で書かれていたのだ。

 本は、直ちにすべての言語に訳され、世界中の千の新聞が評論を組み、著者の写真付きペーパーバックは、空前の大ベストセラーとなって、全世界で彼を知らない者はいないほどになる。

 「キリスト」の名が出てこないこの本に、不信を懐くキリスト教徒もいたが、その声はすぐに打ち消された。

 その頃、ヨーロッパは探刻な危機を迎えつつあった。国家間ではなく、政治的・社会的党派の衝突が絶えず、創設されたばかりの全欧連合も、共通する有力な権威が現われないまま、分解の危機に直面していたのである。議会の全員がフリーメーソン員ではなかったため、互いに意見の一致を見ず、新たな戦争の危機が追っていた。

 ここに至って、メーソンの大秘伝者にして、今や全世界の支持を受けるに至った「自由な道」の著者が、ヨーロッパ合衆国大統領の最有力候補として、にわかに浮上した。その年の総会は、満場の一致で、この若者をヨーロッパ合衆団終身大統領に任命することに決まり、新ローマ皇帝という最高の栄誉を授与して、会議は閉幕した。地球人類へ向けた彼の演説は、次の言葉で結ばれた。

 「地球人類よ、約束は果たされた。世界に恒久的平和が保障されたのである。これを崩そうとするいかなる試みも、無敵の抵抗に出合うことだろう。今より、いかなる国家の集合体よりも強力な中央権力が、地球上に置かれることになる。この無敵の権力は、すべて、専制ヨーロッパ皇帝に選出されたわたしに帰属する。国際法は、ついに、かつてなき最大最強の制裁力を持つにいたった。今より、わたしが平和を語るときに、戦争を語れる国は、一つも存在しなくなる。地球人類よ、平和のあらんことを」

 宣言は即日効力を現わし、各国に組織された強力な皇帝政党の働きかけにより、ほとんどの国が皇帝に服属した。アジア・アフリカの反乱分子は、皇帝の派遣する多国籍軍に鎮圧され、彼は世界中から戦争の種を根絶した。

 2年目に、彼は社会改革を断行、莫大な財源によって貧民救済の仕事に着手、その結果、誰もが能力と労働に応じて十分な供給を受ける理想社会が実現した。

 彼は、博愛家でありまた「動物愛護者」であり、「菜食主義者」であった。それゆえ、生体解剖を禁じ、屠殺に厳しい制限を設けた。また万民に対しては、平等に満腹する政策が実施された。

 この頃、東洋の新仏教徒の間で「日月の神の落とし子」と崇められる魔術師が現われた。カトリック司祭でもある彼は、東洋人と西洋人の混血で、名をアポロニィといった。彼は、西洋科学の最新知識とその技術的応用に通じ、それを東洋の密教と合体させて、「火を天から降らせる」とてつもない奇蹟を操った。

 アポロニィは、帝都ローマに皇帝をたずね、皇帝を東洋の諸聖典に予言された最後の救世主と讃えた。そして、自分の持つ技術を皇帝に捧げる見返りとして、国務大臣枢機卿のポストを手に入れた。ここに至って、それまで平穏に過ごしてきたキリスト教徒の間に動揺が起こり、多くの人が『聖書』の終末予言を調べ始める。「黙示録の獣」、反キリストについての予言が現状と重なるように思えたからだ。

 宗教界の動揺をいち早く察知した皇帝は、4年目の最初に、自ら解決に乗り出した。世界キリスト教公会議を新都エルサレムで開き、全宗派の代表団をここに募ったのである。3,000人の代表者が全世界から集められた。その時、皇帝の官邸はローマから、エルサレムに移されていた。

 その中で、特に注目すべき3名がいた。カトリック代表のペテロⅡ世教皇ロシア正教代表のヨハネス長老、プロテスタント代表の神学者エルンスト・パウルの3名である。

 

ハルマゲドンの勃発

 さて、会議場となった神殿は、3分の2までが出席者用の下座、3分の1の上座には、皇帝と国務長官の座、その背後には大臣用の座席と用途不明のたくさんのシートがあったが、やがて会議が進行するにつれてその用途がはっきりしてくる。

 皇帝は、各宗派の望みを知り尽くしていた。カトリックに対してはローマ聖庁の復帰(聖庁は、当時、ペテルブルクに所在していた)、正数に対してはイコン(聖画)の収集、プロテスタントに対しては聖書国際研究所の設置を提起し、加えて莫大な財源の負担も申し出たのである。しかし、彼は、その代わりに、自分を宗教の最高権威者と認めることを求めた。

 この結果、その申し出に応えて、大部分のキリスト教徒が皇帝の背後に並ぶ上座の席に移り、下座には、ペテロⅡ世、ヨハネス長老、パウル教授を中心とする少数者のみが残ることとなった。皇帝は業を煮やした。

 「そこの変わり者たち、何が望みか言ってみよ!」との皇帝の言葉に、まずヨハネスが口火を切った。ヨハネスは、イエス・キリストこそが主であると述べたうえで、皇帝に対し、キリストへの信仰告白をするように願い出た。

 このときに、初めて皇帝の顔に動揺か広がった。沈黙する皇帝の横で、魔術師アポロニィが視線をヨハネスに固定したまま、彼の唇がかすかに動くと、それと共に、上空に黒雲が徐々に集まり始めた。顔を硬直させ、なおも沈黙する皇帝を指し、「あなたは反キリストだ!」とヨハネスが叫んだ瞬間に、大音響とともに雷が長老に落ち、彼はその場で息絶えた。

 同じようにして、ペテロⅡ世も落雷に打たれて死ぬが、残されたパウル教授は、皇帝こそ反キリストであると宣言し、会場を後にする。

 その後、皇帝は、ペテロ教皇の後継者をアポロニィにするように提案し、聖職者達はそのまま彼を選出した。

 これをアポロニィが受諾すると、宮殿に煌めく星々が現れるなどの出来事があり、一方で、宮殿の隅からすさまじい唸りが聞こえてきた。そこは、イスラム教徒が地獄への入り口としている場所であった。それは、「時は満ちた。我らを解き放て、救世主よ」と語っていた。しかし、アポロニィが、そこへ何か不明瞭な言葉を叫ぶと、それらの声は静まった。

 死んだ2人は、神の子を認めなかったがために天の正しい裁きを受けたものと宣告され、2人の死体は、皇帝の命令により、聖墳墓教会の前に放置された。残された人々は、反乱分子の烙印を押されて追放された。

 だが、2人の死体は3日目に息を吹き返し、パウル率いる追放組と合流する。ここで初めて、カトリック、正教、プロテスタントは真の和解をみることになるのである。そのとき、天に聖母マリアの大きな姿が出現して夜空を照らし、彼らをシナイへと導いた。

 アポロニィは、教皇として、この世と死者達の世界との間の扉を開けたと宣言する。実際に、生者と死者、人間と悪魔との交流が普通の現象となったほか、未曾有の神秘的な淫乱や鬼神信仰がはびこることとなった。

 皇帝は、やがて、密かな「父」の声にそそのかされ、自らを宇宙の至上神の化身であると自称し始めた。すると、イスラエルで、予想もしない事態が持ち上がることとなった。

 皇帝は、エルサレムに遷都する際に、その目的がイスラエルの世界統治権を樹立することにあるとする噂を密かに流したために、ユダヤ人達は、彼をメシアと認め、彼に忠誠を誓ったのであった。

 ところが、皇帝が、割礼すら受けていないことが知られてしまった。(割礼は、ユダヤ人たることの印である。)これにより、国を挙げて皇帝に仕えていた人口3,000万のユダヤ人が、突然、皇帝に反旗を翻し、暴動を起こし始めたのである。

 皇帝は、このときになって初めて、ユダヤ民族がマモン(カネ)に仕える民ではなく、永遠のメシア信仰への熱い願いに燃える民族であることを知り、唖然となった。

 皇帝は、予想外の事態に取り乱し、異教徒の軍団を配備して、ユダヤ人とキリスト教徒の大虐殺に踏み切った。戦争は激化し、皇帝は一時捕らえられるが、教皇の助けによりそれをシリアに逃れた。こうしてシリアから南下する帝国軍と北進するイスラエル軍との対決になった。このときに、皇帝が駐留していた死海付近でかつてない巨大地震が起こり、火山の爆発に火をつけた。そして、この大きな地殻変動の中で、皇帝も魔術師も、その軍隊も火の海に呑まれ、すべては灰と化した。

 すっかり震え上がった民衆は、聖地モリアの丘へ集まり、イスラエルの神に救いを求めた。そのとき、東から西へ天を切り裂くような大きな稲妻か走り、引き裂かれた天幕の彼方から、イエス・キリストが降りてくるのを、すべての人が目にした。そこに、ヨハネス、ペテロⅡ世、パウル率いるキリスト者の群れが合流し、さらに無数の人々が四方から聖地に集まった。全員、反キリストに殺されはずの人々だった。彼らは、1000年の間、キリストと共に生き、地上を治めた。

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 以上が後半である。
 これをソロビヨフの「予言」と考えることは、確かに難しい。述べられている出来事を見る限り、現在の状況からすると、将来その様なことが起きるとは思えないからである。あくまで、何らかのインスピレーションによる創作物語と捉えるべきかもしれない。

 しかし、その要点に絞り、その意味するところを枝葉を捨ててくみ取って解釈すると、世界皇帝の目指した社会が、「グレート・リセット」と重なるようにも思えるのは不吉である。
 シュタイナーは、アーリマンの来る受肉を予言した。実際に起きている現在の多くの出来事が、それに収斂していくように見えることも、不安をかき立てる。

 一方、シュタイナーは、同時にキリストの出現(再臨)も予言しており、そこに救いはある。だが、キリストを受け入れるかどうかは、人間の自由に委ねられてもいる。つまり、結局のところ、人類の未来は、我々自身に委ねられているのである。

 現在の出来事は、既に長い時間をかけて過去に準備されてきたことである。キリストの出現を阻止する勢力も存在してきた。いずれ、このような問題に関わるシュタイナー自身の講演を紹介する予定である。