k-lazaro’s note

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自由をめぐる闘い(前編)


  ウクライナ問題が新たな段階に入っている。ロシア語話者の地域(いわゆる親ロシア派が支配し独立した地域)がロシアに編入されたからである。
 西側の政治家は一方的な併合だと批判し、更なる制裁をと語っている。日本でも圧倒的多数の賛成票が信じられないようで、住民が強制されたという批判を多くのマスコミが行なっている。
 しかし、今回のロシアの侵攻は、2014年の欧米の支援を受けた民族主義者らのクーデター以降、ウクライナ政府が行なってきた、今回編入されたドンパス地域への軍事攻撃(住民虐殺)が背景にあり、ロシアへの編入はもともと多くの住民がずっと望んできたことなのである。
 マスコミは、こうした事実を知らないのか、知っているが黙っているのかわからないが、そこに登場する「専門家」も含め、このような実態を語らず一方的にロシア側を非難するばかりであり、害悪でしかない。
 この地域が編入されたと言うことは、今後この地域への攻撃はロシア国内への攻撃となる。従って、ロシアからすれば祖国防衛の戦闘となる。ステージがアップするのだ。これまでロシアの軍事攻撃は抑制的であったが、その制約がなくなる。ウクライナの国土は壊滅的な攻撃を受ける可能性があるのだ。
 またプーチンは、既にこの戦いがロシアとNATO諸国との戦いであると明言している。実際、現段階では、NATOは武器や軍事情報の提供だけでなく、人的にもウクライナ軍と一体化していると言われている。
 とすれば、これはロシアと西側諸国との戦争となるのである。アメリカが相手となれば、核攻撃も選択肢とならざるを得ないのだ。これが、プーチンが語っていることであり、彼は「脅しではない」とも主張しているのである。実際、ドイツのメルケル元首相は、プーチンの話を真剣に受け止めるべきだと語っており、NATOを除く世界の多くの指導者あるいは識者達が、懸念を表明しているのである。
 しかし、日本ではこのような切迫した状況がほとんどマスコミによって報道されていない。ロシアは、弱いのでウクライナが反撃している、プーチンの体制も危なくなっている等の根拠のない話が語られるばかりである。

 一方で、制裁を科している西側ヨーロッパ諸国の方が、むしろエネルギーや食料危機により、大変な状況となっている。既に庶民の生活は圧迫され、多くの企業が倒産しており、今後更に危機は深まるだろう。本当は、制裁どころではないのだ。だから、国民の中にはロシアへの制裁をやめて中立的立場をとるべきとする意見や運動が盛り上がってきているのである。
 しかし、これらの国の指導者達は依然として従来の姿勢を変えていないようである。
 冷静に考えれば誰でも分かる理屈が通らないのだ。なぜだろうか?
 これらの指導者達(エリート)は、我々とは異なる理屈をもっているらしい。それは、どのような思考であろうか?・・・
 

 これまでこのブログでは、ロシアや中欧を巡る隠れた歴史に触れる論稿を何度も紹介してきた。それらの多くは、シュタイナーの語った、英米アングロサクソン系のブラザーフッドのオカルト的戦略を背景に世界情勢を分析したものであった。
 人類の歴史は、意識の発展の歴史、霊的進化の歴史である。古代、中世、近代、現代の人類の意識の発展段階はそれぞれ異なる。そして、その時代の文化を主に担う民族も
交代していくのである。これまでは、英米が主導する文化であった。しかし、未来においては、ロシア等がその役割を担うのである。それは、人類が失った霊性を回復する文化である。
 しかし、アングロサクソン系のブラザーフッドには、それを知りつつ、それを阻止しようとするものがある。いわゆる影のブラザーフッド、あるいは左道のブラザーフッドである。彼らは、英米の支配を今後も永続化したいのである。そのために、ロシアやそれと連携することが期待されるドイツなどの中欧を弱体化し、英米に従属させたいのである。 
 歴史上で起きる衝突、混乱は、こうした新旧の力の相克から生まれるのである。今、ウクライナを巡って起きている出来事も、まさにそれであろう。

 意識の進化(霊的進化)の観点では、かつての人類は、個人意識が希薄であったが、近代以降、個我の意識が発展するようになった。集団に属し、そこに安住していた人間は、それから独立するようになったのである。しかし、個我の発展は、利己主義という負の側面も生み出した。未来においては、これを克服しつつ、個人が個人として尊重される社会が求められているのである。
 影のブラザーフッドは、これも嫌っている。自分たち以外の全ての人間を支配下に置きたいのである。それが、彼らの背後に存在する闇の霊達の願いだからである。

 影のブラザーフッドの政治的願いは、従って、英米による世界の一極支配である。いわゆる日本を含めて西側は既に英米に従属させられている。今、これに対抗しているのが、ロシア・中国であり、彼らにとっての最大の敵なのである。 

 今回紹介する論考は、紹介済みのものと内容が重複するが、第1次世界以降の、そうした影のブラザーフッド(ここでは「秘密のエリート」)の動きを論じた、『ヨーロッパ人』掲載の記事である。
 前半と後半に分かれており、前半では、現代までの出来事の背後の動きに触れている。後半では、その霊的背景が語られる。

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自由をめぐる闘い(前編)

『ヨーロッパ人』 Jg.26 / No.9/10 2022年7月/8月号               

 

 自由、平等、友愛というフランス革命の偉大な理想は、同時代のすべての警戒心に多大な魅力を与えた。シラー[ドイツの詩人]は、何よりも自分の心と魂のすべてをそれらに輝かせて、まったく新しい条件のもとでの人類の偉大な未来を願った人であったろう。

 その後、ルドルフ・シュタイナーは、人間を完全に自分の足で動かす自由の哲学を掲げ、倫理的個人主義を確立した。そして、その衝動が本当に精神から来るものであるならば、その人を対立に導くのではなく、他の自由な人間との協力に導くものであることを示すのである。シュタイナーの社会思想は、三重の社会有機体の名でまだあまり知られていないが、鋭い思想家たちが示したフランス革命の大理想の明らかな矛盾が解決できることを示している。社会組織を、自由が実現できる精神生活、人間の平等が実現できる法律生活、そして、多くの人にとって意外なことに友愛や兄弟愛が実現できる経済生活という比較的独立した部門に意識的に細分化するならば、そのような矛盾はなくなるのだ。(訳注)

(訳注)シュタイナーが神秘学者として活動する前の時期の著作に『自由の哲学』があり、彼は、その本で、人間にとっての真の自由について論じた。「三重の社会有機体」は、シュタイナーの社会思想で、それに基づく運動は、社会三層化運動とも呼ばれる。人間の3重の構造に模して社会有機体を構築する考え。その具体的内容は、後の文章で説明される。

 

 このような大きな衝動は、大きな抵抗なくして実現することはできない。ある種の集団は衝動に基づいて活動し、遅くともフランス革命で正当性を失った思想に導かれ続けるだろう。しかし、人々は、たとえほとんど無意識であっても、偉大な理想を自分のものである価値あるものとして認識しているので、支配しようとする権力のサークルは、成功を望むなら、嘘と協力しなければならないのである。だからこそ、大きな理想は表立っては攻撃されない。むしろ、誤魔化すためにフレーズが捏造されるのだ。例えば、由という理念を、その逆を求めているにもかかわらず、フレーズによってプロパガンダするのである。(訳注)

(訳注)英米の支配層は、よく自分たちの行動を「民主主義」や「自由」を守るためとして正当化するが、実際に行なわれているのは、その逆で、それらを破壊していることは世界中の良心的識者達により指摘されてきた。残念ながら、日本を含め欧米の一般大衆には、その意識が拭いがたくこびりついており、英米が善で、それにはむかう者(例えばロシア、中国)は悪であると、自動的に受け入れてしまっている。しかし、欧米以外の世界ではその常識は通用しない。これまで、英米勢力により痛めつけられてきているからである。ウクライナ問題で、欧米のロシア批判に同調しない国々が多数存在することに表れている。ロシアを絶対的に悪とする「国際世論」は、実際には、一部の国々の世論に過ぎないのだ。

 

 秘密のエリート

第一次世界大戦中、ルドルフ・シュタイナーは、17カ国から集まった第一ゲーテアヌムのスタッフ(中には敵もいた)に講義を行い、その内容は「Zeitgeschichtliche Betrachtungen」として書籍化された(GA 173 a-c)。その中で、第一次世界大戦が自然発生的に起こったものではなく、1880年頃からすでに作られていた最初の構想にさかのぼって計画されていたことを示したのである。計画者たちは、セシル・ローズやアルフレッド・ミルナー卿などからなる「秘密のエリート」で、アングロサクソン種族の優位性を確信し、歓迎されない競争相手であるドイツを排除して、世界政府を作り、その成果によって輝かしい未来がもたらされると期待していたのである。

シュタイナーの発見は、例えば、Jakob Ruchti1, Carroll Quigley2, Anthony Sutton3, Guido Preparata4, Christopher Clark5 の重要な研究によって確認されている。2013年、スコットランド人のGerry DochertyとJim Macgregor※6による「Hidden History秘密の歴史」が、「Verborgene Geschichte秘密の歴史」というタイトルでKopp Verlagからドイツ語で出版された。この書籍は、「秘密のエリート」の行動を非常に正確に、鮮明に描写している。(訳注)

(訳注)アマゾンの当該書の紹介文には次のようにある。「第一次世界大戦の責任者を独自に暴露している。この本は、人類に対して行われた最も凶悪な犯罪の責任者であるロンドンの大金持ちと権力者の秘密の陰謀の罪を隠すために、戦争の起源に関する記述がいかに意図的に改ざんされてきたかを明らかにするものである。彼らは10年間、世界を支配する計画の第一段階として、ドイツの破壊を企てていた。フランツ・フェルディナンド大公の暗殺は、決して偶然の出来事ではなかった。サラエボからベオグラードサンクトペテルブルクを経て、ロンドンの陰謀団に至る指揮系統の中で、慎重に設定された導火線に火をつけたのである。」

 

第一次世界大戦

1871年ドイツ帝国が成立した。帝国の成立の前には、独創的な野戦司令官ヘルムート・フォン・モルトケが勝利した独仏戦争があった。この戦争の過程で、ヴィルヘルム1世は、ヴェルサイユでドイツ皇帝に戴冠し、アルザス・ロレーヌは新興帝国に併合された。

帝国の成立により、産業はかつてないほど急速に発展したが、帝国の存在を正当化するような内容を内外に示すことは全くできなかった。ドイツの偉大な哲学者や芸術家の功績は、このようなコンテンツを作るための優れた基礎となったことだろう。しかし、まさにその逆が行われた。彼らの作品は、無視されるか、あるいは拒絶されるかのどちらかであった。第一次世界大戦におけるドイツの罪を語るなら、この機転のなさと反発のなさに見出すことができるだろう。

もちろん、前述の「秘密のエリート」の狙いや非人間的な行為に全く同意することはできないが、いかに長期的な計画を立て、慎重かつ粘り強く活動したかは賞賛に値するだろう。第一次世界大戦の勃発時、それに対抗していたのは、ヴィルヘルム2世という虚栄心の強いおしゃべり好きで、シュタイナーが「無価値」になったと言わざるを得ないドイツ政策であった-何が行われているのか把握できず、それに応じて陰謀に対する答えも見いだせない。このため、参謀長のヘルムート・フォン・モルトケ(前述の陸軍元帥の甥)に全責任がかかっていた。

フランスは1894年、巧妙な計画によってロシアを同盟に導き、そのためにアルザス人ユダヤ人将校アルフレッド・ドレフュスを犠牲にしたのである※7(訳注)。しかし、その背後では、英国王エドワード7世をはじめとする「秘密のエリート」が糸を引いていたのである。また、彼らは、1904年にイギリスがフランスと結んだ秘密同盟「Entente cordiale」(!)の責任者でもあった。

(訳注)1894年、当時フランス陸軍参謀本部の大尉であったユダヤ人のアルフレド・ドレフュスがスパイ容疑で逮捕(実際は冤罪であった)され、国を揺るがす大きな問題となった。人権問題にとどまらず、対独復讐主義や反ユダヤ主義軍国主義、教権主義など、第三共和政下の諸争点が噴出して、フランス国内が二つに分裂した。

 

カイザーの素人的な介入にもかかわらず、モルトケは前任者のシュリーフェン・プランを修正し、フランス、ロシア、イギリスの連合国による二正面戦争の脅威にシュリーフェン計画で対抗しようとしたのである。彼は、フランスと和平協定を結ぶために、開けた地域でフランスを早く倒すことを計画したのだ。そうすれば、その後、ロシア軍に対抗するために、後方の自由を手に入れることができるだろう。この計画は、皇帝の不手際と一部の軍幹部の強引な行動によって失敗に終わった。

モルトケは退陣した。後継者であるフォン・ファルケンハイン将軍の戦いは、数十万人の死傷者を出す壊滅的な塹壕戦となった。モルトケは、無能な皇帝、後継者の戦争遂行、迫り来る敗戦から、言いようのない苦しみを味わった。「戦後は勝者のプロパガンダが戦後の歴史学になる」という言葉は、当然ながら第一次世界大戦にも当てはまる。そのエネルギーと周到さには驚かされる。

ドイツ帝国が戦争の唯一の責任を負うという嘘を、「秘密のエリート」がいかに精力的に、そして慎重に流通させ、今日に至るまで守り通してきたか、驚くばかりである。「Hidden History』の著者であるDochertyとMac-gregorは、このことを詳細に報告し、戦後、ヨーロッパの公文書が徹底的に「クリーニング」されたことを指摘している。この大仕事を任されたのは、45歳の鉱山技師ハーバート・クラーク・フーバーであった。フーバーは、自分の存在をアピールしていた。

ロスチャイルド家が所有する金鉱を管理する、タフで冷酷な "エリート "として。フーバーは、新しい任務を人知れず遂行するために、飢えた子供たちを救うという偽装を行なったのだ。彼は1000人の諜報員を集め、最初の運搬で37万5000冊の戦争機密文書を押収した。その文書は、ヨーロッパに食糧を運んできた船でアメリカに運ばれ、スタンフォードに保管されていた。フーバーは、その功績により、後にアメリカ大統領(1929〜1933年)に就任した。

 

ルドルフ・シュタイナーの覚書

1917年、世界大戦のさなか、ルドルフ・シュタイナーはオットー・グラーフ・フォン・レルヘンフェルトから、中欧が戦争の行き詰まりから抜け出すにはどうしたらいいかと尋ねられた。この質問によって、シュタイナーは、数週間に及ぶレルヒェンフェルトとの会話の中で、「三層構造」と呼ばれるようになった彼の偉大な社会的思想を初めて表現することができたのである。その後、2つのメモ※8を作成し、各国政府関係者に送った。シュタイナーは、これらによって、中欧、特にドイツ帝国に欠けている精神的実体としての内容を与えようとした。そして、相手の理解を得、そのうえで協商国が無視できないような和平工作を開始することを期待した。

シュタイナーはこのメモの中で、関連する事実に関する膨大な知識を駆使して、ドイツ帝国に侵略されたから戦争を継続しなければならず、将来そのような侵略を不可能にしなければならないと主張する協商国のスポークスマンに反論している。また、アメリカのウィルソン大統領にも反対した。彼は、14項目のプログラムの中で、特に民族の自決権を要求したが、これは無数の浅薄な考えの人達を魅了するものだった。シュタイナーは、このような自決権、つまり「民族の解放」は、必ず民族間の無数の紛争を引き起こすだけであることを示したのである。また、西欧型の民主主義システムの押し付けを許すことは、中欧にとって有害であると指摘した。その帰結として、根本的に新しいことを、しかし、既存のものから有機的に発展させられたことをあえてするために、世界大戦の破局を招いた思考の習慣を捨てるよう自ら立ち上がらなければ、中欧アングロサクソンの世界支配の奴隷になることを、彼は先見の明をもって予見していた

 

まず人民を解放し、次に人民を解放する!

 シュタイナーは、「民族の解放を考える前に、まず人間を解放しなければならない」と主張し、この新しい考えを実現するために、中欧地域が特に適していると考えたのである。彼は、第一に、民主的な人民代表制をとり、その活動範囲を純粋に政治、軍事、警察業務に限定することを要求した。第二に、政治と軍事の問題から解放され、国民のニーズを満たすことに完全に集中できる経済議会である。そして第三に、法律、教育、精神的なものを包括し、個人の自由に全面的に委ねられる「分野」である。ここでは、国家は取り締まる権利だけは持っているが、主導権は持っていないという。「国家は、事実上、専門家や民間の共同事業者に、裁判所、学校、教会などを設立させ、個人には、自分の学校、自分の教会、裁判官を決めることを委ねている。もちろん、その都度ではなく、ある一定期間である」※9。

 シュタイナーは、これを聞いた人たちが、自分たちのこれまでの考えや先見の明のなさが、戦争という大惨事を招いたのだと理解し、それにより目あたらしいものを理解するようになることを望んでいた。もし、この新しいものが著名な人々によって支持されていたならば、協商国[イギリス・フランス・ロシア]は面目を失わずにこの和平構想を無視することはできなかっただろうと、シュタイナーは予想していた。

 シュタイナーの考えは聞き入れられた。外務大臣リヒャルト・フォン・キュールマンが、ボルシェビキとブレスト・リトフスクの「平和条約」を交渉したとき、このメモランダをブリーフケースに入れて持っていたのである。しかし、一方的な軍事的思考しかできないヒンデンブルクルーデンドルフに、条約の内容について口車に乗せられてしまったのである。シュタイナーは、交渉の内容を読んで、ぞっとした。しかし、この敗北は、戦後の再挑戦を妨げるものではなかった。この時、彼は同僚とともに革命的な考えを持つ労働者に接近し、新しい考えを伝えようと最大限の努力をした。

 シュタイナーは、労働者の間に大きな関心と理解を見出した。しかし、彼らの指導者は、希望に満ちたアプローチを阻止した。彼らもまた、身近なことを考えることしかできなかったのだ。シュタイナーはもちろん、自分の画期的なアイデアを実現するために十分な反響とエネルギーが得られる見込みがないことは承知していた。しかし、戦時中から戦後にかけては、自分や弟子の声を聞いてもらうチャンスだと考え、全身全霊を傾けて2つの試みに着手したのである。"成功のために働くな "と、彼は友人に言った。

 ルドルフ・シュタイナーの最も重要な弟子の一人であるルートヴィヒ・ポルツァー=ホディッツは、弟を通じてハプスブルク家の最後の皇帝カール1世とつながりがあり、アルトゥール・ポルツァーは彼の内閣のトップであった。こうしてシュタイナーの覚書はカール皇帝の手元に届き、ポルツァーがそれを皇帝に伝えたとき、皇帝は、「期待を持って注意深く」聞いていた。この芽も謀略によって抑えられ、ポルツァーは内閣のトップを辞めざるを得なくなった。アルトゥール・ポルツァーは、退位後の皇帝カールについての回顧録を書いている※10。その中で彼は「三層化」について触れ、シュタイナーの覚書を付録として印刷させた。興味深いのは、もちろん偶然ではないのだが、英語版とイタリア語版では、シュタイナーや三層化と覚書への言及がすべて慎重に削除されていることである。このことから、反対派はシュタイナーの社会思想の爆発力をよく知っていた、そして今も知っていると結論づけることができる。

何も学んでいない?... ルートヴィヒ・ポルツァーの覚書

 その後、1930年にルートヴィヒ・ポルツァー自身が覚書を書き、有力な60人の人物に送った※12。彼は、「人は、世界大戦から何も学んでいない」と指摘した。その考えは、確かに国家ではなく大陸で行われ、同じく伝わったテンプレートにしたがって機能する。人は超国家的なメカニズムを目指す。しかし、経済や「精神領域」に直接関与する国家権力は、国家権力以上に生命を奪う。その結果、生活の困難さは計り知れないほど増大し、人々は独裁者を求めるようになる。しかし、命令する権力は、決して生産的ではない。ポルツァーはナチスの独裁を予見し、中欧アメリカとアジアの大規模な対立の戦場となることを予見していた。1914年のドイツ政府のように、再び「無価値」になろうとしている現在のドイツ政府の無思慮な行動を考慮するならば、ポルツァーがヨーロッパに迫っていると見た恐ろしい危機が、その真の姿に気づかないまま、今日も迫っていることを恐れざるを得ない。

 ポルツァーは、生産的なアイデアは、決して命令する力から生まれるのではなく、解放された精神生活からしか生まれないと書いた。しかし、もしそれが国家や経済に干渉されるなら、人間は十分に成長することができず、技術的進歩に対抗して内面的な発展を遂げることもできないだろう。自由でない者は、この進歩を利用することができる代わりに、その下僕に沈むことになるのだ。彼は、不自由なまま、荒々しい暴力で人生の意味を問う若者たちに、満足な答えを与えることもできないだろう。

 経済は個々の国家の主権から切り離されなければならない。決して階層的な構造であってはならない。そのためには、自由な協定と経済のさまざまな部門間の理解、そして売却できない生産手段に基づく資金調達が必要である。

そして、国家は純粋に政治的、警察的、軍事的な仕事に限定すべきである。

 

第二次世界大戦

 周知のように、これらのアイデアは採用されなかった。ヴェルサイユ平和条約は、ドイツ人にとって不当なものであると認識されていたが、むしろ国家社会主義者(ナチス)の手にかかるとプロパガンダの武器となり、その台頭を加速させた。また、アントニー・サットンは、褐色党[ナチス]が欧米からかなりの資金援助を受けていたことを明らかにしている※13。ひどい狂信者でユダヤ人嫌いのヒトラーを、反ユダヤの狂信者ではまったくないが、自分たちの計画にヒトラーを利用しようとする人たちが支えていたのだ。いわゆる総統は、実際には、自分の憎悪に操られた者であり、「秘密のエリート」の「役に立つ馬鹿」であった。

 「ヨーロッパの解放者」と無批判に称えられたチャーチルは、ヒトラーとは両義的な関係を持っていた。「人は、ヒトラーの体制は嫌いでも、その愛国的な業績は賞賛できる。もし我が国が一度敗れたとしても、同じように不屈の闘志を持ち、勇気を奮い立たせ、国の中で正当な位置を占めるように導いてくれる人が現れることを期待する。」と、彼は1947年9月17日の『イブニング・スタンダード』紙に書いている※14。しかし、他のどの政治家よりも、チャーチルも戦時中および戦後に民主主義と自由の偉大な擁護者として行動し、そのために賞賛されている。

 しかし、それは、チャーチルがロンドンで行った演説の次の一節が示すように、すべてフレーズだった。「もちろん我々は、ヨーロッパ合衆国が国際関係の問題の最終的かつ完全な目標であるかのように装ってはいない。権威ある全権的な世界秩序の構築は、我々が目指すべき最終目標である。効果的な超政府が速やかに樹立されない限り、平和と人類の進歩の見通しは暗く、疑わしいままである。しかし、間違いはないはずだ。ヨーロッパが統一されなければ、世界政府の確実な見通しは立たない。むしろ、ヨーロッパの統一は、この理想に向けた必然的な第一歩なのだ第一次大戦後、国際連盟アメリカの力を借りずに、弱小の断片化したヨーロッパに国際秩序を築こうとした。この失敗は、大きな代償を払うことになった。第二次世界大戦後の今日、ヨーロッパは以前にも増して弱体化し、混迷を深めている。平和の殿堂の4本の柱のうち、1本は粉々に砕け散って目の前にある。私たちの願望を満たす寛大な上部構造を構築するために、それらをまとめ、再構築する必要があるのだ。もし今後5年の間に、平和に関して抗しがたい力と申し分ない権威を持つ世界組織を構築することができれば、すべての人が享受し共有する祝福は限りないものとなるだろう。ヨーロッパがその集団的個性を自覚し、人類の展開する運命を導く上で相応の役割を果たすことを決意する統一と安定ほど、この世界組織の構築に力強く役立つものはないだろう」。※15

 チャーチルはここで、「秘密のエリート」が求めてやってきており、今も目指していることを公然と述べている。人類は、抵抗できない、手のつけられない世界政府によって支配されることになる。少数の人が、世界中の人々の生活を支配することになるのだ。これは、遅くともフランス革命で克服された衝動を土台にしたプログラムである。これは、ルドルフ・シュタイナーの「三層化」の考え方に沿って考えられた社会組織の中で展開される時にその創造性が期待される人間の自由という考え方に対抗するプログラムである

 多くのドイツ人がヒトラーに流されることを許し、ヒトラーの恐ろしい侵略戦争強制収容所において、無数のドイツ人が個人的に罪を負わされた。しかし、今日、非常に多くのドイツ人が、恐ろしい出来事にまったく関与していないにもかかわらず、ドイツ人であることに罪悪感や恥ずかしさを感じているのは、一方では不条理であり、他方では「秘密のエリート」によって意図されていることなのである。大きな功績を残したセバスチャン・ハフナーは、このドイツ人のことを「ジキル・ハイドのような性格」と語っている。善良な面と犯罪者の面を持ち合わせているからである。ハフナーは、それによって「秘密のエリート」の活動を無視ており、良いことだけでなく悪いこともする素因を持つのが一般的な人間の現象であることを考慮に入れていない。ルドルフ・シュタイナーは、すべての人間はあらゆる犯罪を犯す素質さえ持っており、通常犯罪が実行されないのは、当人がその素質を持っていないからではないと指摘している。

 

世界大戦後

 中欧は、ルドルフ・シュタイナーが考えるように、フランス革命で人間の深層から湧き上がった偉大な理想を実現するのに適した地域であるが、世界大戦後、文字通り荒廃してしまったのである。しかし、人間の自由を求める闘いは続き、今も続いている。権力を行使し、権力を強化するために、数え切れないほどの嘘が世に送り出された。ここでは、代表的なものをいくつか紹介する。

 捏造されたトンキン事件は、ベトナム爆撃を支持するようアメリカ国民を説得するために利用された。

 いわゆる「インキュベーター(保育器)の嘘」は、第一次湾岸戦争を可能にする感情を呼び起こし、イラク大量破壊兵器保有しているという嘘は、第二次湾岸戦争を促進する感情を呼び起こした。世界貿易センタービルの3本(!)のタワーが倒壊したという嘘は、その後の戦争を、それに参加した国の国民が必要と考えるに至った。いわゆるコロナのパンデミックの行方を決定づけた計画と嘘は、全世界の人々の個人の自由に対する直接的な攻撃であり、ウクライナにおけるロシアの戦火を一方的に描いたことは、民族間の理解に対する攻撃である。

 平易な言葉で語られることは非常に稀である。ジョージ・フリードマン(!)(訳注)は、西側勢力圏が長期計画で何を重視しているかを率直に語っている。「前世紀を通じて、つまり第一次、第二次、冷戦を通じて、米国の最大の関心はドイツとロシアの関係だった。この2国が一体となれば、我々を脅かす唯一の国になるから、そうならないようにすることが必要だ」※16。

(訳注)1949年、ハンガリー生まれ。ルイジアナ州立大学地政学研究センター所長などを経て、1996年に世界的インテリジェンス企業ストラトフォーを創設、チェアマンを務める。 同社は、政治、経済、安全保障にかかわる独自の情報を、アメリカほか各国の政府機関、世界中の一流企業に提供し、「影のCIA」の異名をもつ。 著書に『100年予測』『続・100年予測』など。

 

 フリードマンが言う「アメリカの利益」とは、もちろんアメリカ国民の利益ではなく、アメリカの政策をほとんど中断することなく決定し、権威ある世界政府を目指している権力者たちの利益のことである。

 それらは、人間に永続的に属している偉大な理想と対立するものである。

 

             ディーター・アッカーマン博士(Dr. Dieter Ackermann)

 

《注》

1 ヤコブ・ルヒティ『第一次世界大戦の勃発』ペルセウス出版社、第2版。

2 キャロル・クイグリー『カタストロフィと希望』ペルセウス出版、第5版、2013年。

3 アンソニー・サットン『ウォール街ヒトラーの台頭』ペルセウス出版、第7版。

4 グイド・G・プレパラータ『誰がヒトラーを強力にしたのか』ペルセウス出版、第3版。

5 クリストファー・クラーク『夢遊病者たち:ヨーロッパはいかにして第一次世界大戦に移行したか』オレル・フュスリー出版社。

6 ジェリー・ドハティ&ジョム・マクレガー『隠された歴史』(コップ出版)。

7 トーマス・マイヤー「欺瞞と世界政治」『ヨーロッパ』18巻2/3号(2013/1/14)。

8 ウィルベルト・ランブレヒツ『1917年の覚書』イタ・ウェグマン研究所2017年。

9 op. S. 80.

10 Arthur Graf Polzer-Hoditz, Kaiser Karl, Aus der Geheimmappe seines Kabinettchefs. アマルティア出版社 1929年

11 op. S. 535

12 トーマス・マイヤー『ルードヴィヒ・ポルツァー=ホーディッツ-アイン・ユーロペア』ペルセウス出版、第2版、p.687ff。

13 アンソニー・サットン『ウォールストリートとヒトラーの台頭』ペルセウス出版。

14 https://winstonchurchill.org/publications/finest-hour/finest-hour-156/ did-churchill-ever-admire-hitler/

15 1945年5月14日、ロンドンのアルバート・ホールで行われたチャーチルの演説の一節。

16 https://de.wikipedia.org/wiki/George_Friedman

【後半に続く】

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 現代の多くの軍事的衝突、侵略は嘘から始まっている。意図的に作り出されたものなのである。しかし、そうした真実は公には語られない。民主主義を、自由を守るためという美名に隠れているのである。
 アメリカが、そのようにしていかに多くの国々を破壊してきたことか。今、ウクライナを侵略し破壊し、人命を奪っているとロシアを批判する者がいる。しかし、彼らは、こうしたアメリカの行い(その被害の程度で言えば、ロシアの何十、何百倍かわからない)を批判してきただろうか?
 また、そもそも今のウクライナにしても、もとはアメリカやNATOがその原因を造り出したものである。ドンパス地方へのウクライナ政府による攻撃や、NATOによるロシア包囲の強化等である。
 嘘は、影のブラザーフッドが得意とし、よく利用するものである。