神秘学の教えのなかに、「第8球(あるいは第8圏、第8領域)」というものがある。
その意味は、多少複雑で多義的な内容を持っているようである。フレッド・ゲッティングズは、「たいへん誤解されているオカルト用語」で、「通俗的なオカルティズムでは、この言葉は、煉獄またはカーマローカを表すのに使われるが、真面目なオカルティストは、その適用は違っていると論じる」とし、また「通俗的なオカルト文書では、・・まさに月の球層に同定され、秘教の伝統では、死後の煉獄での経験に関連付けられている」(『オカルトの事典』)と述べている。
球層というのは古代の天文学の概念で、惑星や恒星は地球を中心とする層的構造をなしているということに由来する。地球に最も近い球層が月のそれなのである。そして、煉獄あるいはカーマローカとは、死者が天国に行く前に、この世の汚れを脱ぎ捨てるために滞在する場所である。
ゲッティングズは、これ以上詳しく解説していない。しかし、月や煉獄という言葉が示唆しているのだが、第8圏には、どうも死や悪の観念が関係しているようである。
これについて、シュタイナーの教えにより更にその意味を探ってみよう。「アントロ・ウィキ」の第8圏の項目から引用する。
ルドルフ・シュタイナーがさまざまな文脈で語っている第8の球は、地球と人類の発展にとって決定的な重要性を持っている。この領域(球)を概念的に把握するのは容易ではありません。一方では、創造主である神々、エロヒムの地上での活動の領域を意味し、他方では、さまざまな宗教的伝統の中で「地獄」の極みと呼ばれているものと事実上同一であるのですから。
「神々、エロヒム」とは、旧約聖書(創世記)に出てくる人間を創造した神的存在である。神々というが、いわゆる天使であり、ゆえに複数形なのである。
第8の球の謎は、人類発展の精神的背景を見ることで、明らかにすることができる。人間は、土星、太陽、月という歴代の惑星圏(球)を経て発展し、現在、地球では第4段階の進化を遂げている。しかし、これらの球は単に連続したものと考えてはならず、その進化の様式と発展の果実は、現在、相互に浸透しているのである。私たちは、土星人、太陽人、月人を内包しているのである。霊的ヒエラルキーは、現在すでに高次の領域で活動しており、人間は将来、その能力の拡張によってのみ到達することができるのである。人間はその総合的な性質からして、すでにこれらの領域に萌芽的な部分を持っていると言える。
地球はこれまで、土星、太陽、月の状態(球)を経て現在に至っており、今後更に、木星、金星、ヴァルカンの7つの球を通過していくとされる。人間は、これらの各球において段階的に進化してきており、人間はその成果を自己の内に保有している。霊的ヒエラルキーとは天使達であり、人間より高次の進化段階にある。人間も未来においてその様な進化段階に達するのだが、既に潜在的にその萌芽を保有しているのである。
地球及び人間の進化は、全部で7の球を経ることになっているが、第8球とは、その進化のライン上にはない球であり、故に第8の球となる。それが意味するのは、つまり進化の道から外れた存在であるということである。そしてそこに潜むのが悪の存在である。
第8球の深部には新たな危険が潜んでおり、それは闇の霊の堕落後、第2次ミカエル啓示の時代からますます明白になってきている。というのも、ここでアーリマンは、正当な神の霊的存在の敵として、長い間ひそかにその作用を展開してきたからです。彼はここで、通常の世界の進化から切り離された自分の地下王国を作り、そこにできるだけ多くの人間の魂を引き込もうとしているのです。これはルシファーの炎の地獄ではないが、ここに暗い氷の冥界が生まれ、アーリマンの影の領域、すなわち多くの宗教的伝統が語る永遠の呪いの場としての真の、実際の「地獄」があるのである。
ある意味で、私たちの現在の月が古い月の存在から取り残された残滓(残りかす)であり、そこにはもはや現在の地球の存在への更なる規則的な発展に参加できないすべての力が凝縮されているように、同様に私たちの地球の進化から残滓が残り、それは進歩的発展から脱落し、まさにこれが今日すでに第8圏の形で準備されており、それはアーリマンの力によって浸透されているのである。
第8球は、既に存在し、そこでアーリマンという悪魔が活動している。悪魔とは、本来の進化の道を拒否した霊的ヒエラルキーである。アーリマンは、進化から取り残された残滓を第8球に引き込むのである。
「この連続的な発展に参加できないすべてのものが行く第8の球がある。これはすでに霊的状態で形成されている。もし人間が地球での生活を、自分だけに役立つものを集めるためだけに使い、自分のエゴイスティックな自己の高揚だけを経験するなら、これは霊的世界でアヴィーチ(地下世界)の状態へと導く。これらのアヴィーチの人々はすべて、第8圏の住人になる。アヴィーチは、第8圏のための準備です。他の人間は、連続した進化の連鎖の住人となる。宗教はこの概念から「地獄」を定式化したのである。」 (ルドルフ・シュタイナー:GA93a、p.112)
「第4球(地球)の前半で、人間はまず自分の感覚を鉱物界と関連づける能力を獲得し、第4球(地球)の後半で鉱物界を救済する。しかし、その一部は、もはや人間にとって有用でないため、残され、排除される。これはいわゆる第8圏を形成し、もはや人間の成長には役立たず、高次の存在にのみ役立つ。それは後に宇宙の塵に溶けて、他の世界の新しい形成に使われるとき、材料として彼らに役立つことができる。それは他の発展の流れに含まれるものであり、人間はそれを自分の中に含めることはできない。」 (ルドルフ・シュタイナー:GA89、P.152)」
自己の利益のみを追求するエゴイスティックな人間は、アヴィーチを経て、第8圏に行くと言うことである。そこには、人類の進化にとって不要となった物質的存在もいったん収容されるようである。
「アーリマンは第8圏から働きかけ、人間の望みと意志の性質にエゴイズム、つまり単なる私利私欲を持ち込み、それによって死の力を生体に接種しようとするのです。」(ルドルフ・シュタイナー:GA194、p.45ff)
アスラは第8圏とも密接な関係がある。古土星ですでに発展のゴールを逃したアスラたちは、「第8圏に向かって努力する存在である。彼らは物質をどんどん圧縮して、二度と霊化できないように、つまり元の状態に戻せなくしようとする。彼らは、土星に始まり、太陽、月、地球、木星、金星、バルカンを通過する全惑星の進化の堆積物である。アスラはすでに月に住み、月から人間に影響を及ぼし、人間を第8圏に引きずり込もうとし、その結果、進歩的な発展とその目標であるキリストから人間を奪い去ろうとしているのです。第8圏に向かおうとするすべての人々は、最終的に([新しい]木星の)月の上にその存在を見出すだろう。" (ルドルフ・シュタイナー:GA266a、p.205)
アーリマン、ルチファーとはべつの悪魔としてアスラがいる。アスラも、アーリマンと同じように人間を第8圏に引き込もうとする。第8圏の住民は、地球の次の進化段階である「木星」自体に住むことはできず、その衛星である月の住民となるのである。
「「甲虫やクモなど、角質のある外骨格を持つ動物は第8圏と関係があり、植物の中では特にヤドリギがそうである。」
「第8圏には、たとえば蜘蛛が、植物ではヤドリギが属している。それゆえゲーテは、蜘蛛と蝿の領域をメフィストのものであるとする。」 (ルドルフ・シュタイナー:GA89、p.134)
第8球に向かう人間があるように、第8圏に行くこととなる植物と動物があるのである。
実は、今回、第8球について述べたのは、現在の新型コロナを取り巻く問題を考えるとき、霊的な悪の存在を視野に入れる必要があると考えられるからである。「コロナ・ワクチンー霊的観点から」の項目でも示されているが、人智学派の人々の中には、人類の霊的進化に対抗する霊的な勢力をその背後に見ている者がおり、確かに重要な視点であると思うのである。