k-lazaro’s note

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心臓はポンプではない ⑤

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レオナルド・ダ・ビンチ 「ウィンザー解剖素描集」

 これまで「心臓はポンプではない」とするシュタイナーの考えについて、トマス・コーワン博士の本をもとに解説してきた。その中で、心臓の中で血液が渦を形成しているという記述がでてきた。これは、現代になってようやく明らかになった知見である。しかし、それを400年も前に、見いだしていた天才がいる。レオナルド・ダ・ビンチである。
 『タオ自然学』で物理学と東洋思想の類似性を指摘し、ニューエイジ運動にも影響を与えた物理学者、フリッチョフ・カプラ氏は、『レオナルド・ダ・ビンチの手稿を解読するー手稿から読み解く芸術への科学的アプローチ』(一灯舎刊)で、これについて述べている。これは、レオナルド・ダ・ビンチの膨大な手稿に記録された彼の科学的認識、発見について解説した本である。カプラ氏は、この中で、レオナルド・ダ・ビンチの、時代を超越した優れた科学的洞察について述べており、心臓の渦記述はその中の1つである。
 レオナルド・ダ・ビンチは、人体の解剖を行い、それをスケッチしていたのだが、その鋭い観察眼は、「万能の巨人」の名に恥じず、医学者顔負けであった。そしてこの本に依れば、それは、当時の医学者のみならず、現代の医学者をもうならせるものであるというのである。
 例えばカプラ氏は、次のように述べる。

 レオナルドは心臓弁の機能を完全に理解しており、様々な開閉段階での形を驚くほど正確に示説した。・・・医学史家でレオナルド学者のケネス・キール氏は、大動脈弁の開閉を描いたレオナルドの2点の素描と、キール自身が同じ弁を撮影した2枚の高速度写真を並べて比較した。

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大動脈弁 左がレオナルドの素描、右が現代の高速度写真

その結果は衝撃的だった。500年前にレオナルドが描いた、開いた弁尖の間にできた開口部の三角形の形、弁尖の縁の波打った形、閉じた弁の細かい形は、現代の写真によって示された解剖学的特徴とほとんど同じだったのである。(千葉啓恵氏訳)

 そして、カプラ氏は、レオナルドの心臓の解剖において最も高度で驚異的な部分として、大動脈の根元に入ったときの乱流(渦)のスケッチと記述を挙げているのである。

 彼は、血液が三角形の開口部を通過すると、既に大動脈の中にある静止した血流に衝突し、その後の逆行運動で、3つのはっきりした渦を作ることを明らかにした。そしてこれらの渦が、血液が大動脈弁のすぐ後ろにある、大動脈壁の3つの袋の中を通った時に発生することを示した。彼はこれらの半球形の袋を「半円」と呼んだ。この袋は、18世紀にこれを再び発見したアントニオ・バルサルバにちなんで、現代ではバルサルバ洞と呼ばれている。

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大動脈の根元での血液の乱流(ウインザー手稿)

・・・いずれにせよ、彼の仮説(大動脈弁の開閉は、大動脈洞で回転する血的の渦によって開始するというもの)が実験的に検証されるまでには、400年以上を待たなければならなかったのだ。

 現代科学がようやくレオナルド・ダ・ビンチに追いついたと言うことである。
 だが、どうして彼がこのようなことを発見できたのかと言うことについては、彼の天才と言うことだけでは説明ができないと指摘する者もいる。確かに、死体の解剖によって血液のこのような動きを把握することはできないと思われるのである。
 では、どこからその知見を得たのか?
 レオナルド・ダ・ビンチは確かに天才であるが、彼の知識には、自分自身の独自の探求により得たものの他に秘密の源泉があったようである。
 それは、彼の絵にも現れている。それについては別に改めて触れたい。