k-lazaro’s note

人と世界の真の姿を探求するブログです。 基盤は人智学です。

シュタイナーの学際的天文学 ①

 

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  シュタイナーは、もともと現在のウィーン工科大学で学んだこともあり、当時の自然科学に関する豊富な知識を有しており、この分野についての講演もいくつか行っている。それは、もちろん宇宙と人間に関する霊的認識をもとにしたものである。しかし、当時の自然科学の唯物主義的アプローチを批判はするものの、といって、その意義を否定するものではなかった。もともとシュタイナーは、自身の人智学を精神科学(霊学)とも呼んでおり、それは自然科学の方法で霊的世界を探求することを意味していたのである。人の、とらわれのない科学的な理性をもって霊界を探求すると言うことである。

 しかしながら、既にこのブログで紹介してきたように、例えば、「心臓はポンプではない」と言うような主張のように、シュタイナーの認識に、現代の自然科学の常識に反する考えが多いのは事実である。所詮、現代の自然科学の通説も仮説に過ぎない。以前紹介したルパート・シェルドレイク氏の「物理学の基礎定数は変化する」でも明らかなように、自然科学が自明のものとしてきた前提自体が誤っている可能性もあるのである。

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 さて、今回は、シュタイナーの天文学に関する認識について紹介する。

 秘教の教えでは、マクロコスモスである宇宙とミクロコスモスである人間は照応関係にあるとされる。宇宙にあるものは、人間にもあるのであり、また人間の誕生と成長の過程に宇宙のそれを見ることができるのである。
 宇宙と人間の照応関係をよく表しているのが、いわゆる「獣帯人間」である。それは次の絵のように、人体の各部に獣帯(黄道十二宮)を割り当てたものである。人間の各部は、獣帯と照応関係があり、その影響を受けているというのである。

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 シュタイナーは、1921年宇宙論天文学に関する講演で、人の受精卵は「宇宙全体のイメージである」として、次のように語っている(この講演は、”Interdisciplinary Astronomy学際的天文学”と言う表題で出版されている)。

 もう一つの科学の分野は、いわば天文学の対極にあり、天文学を抜きにしてその本性を研究することはできない。・・・今日の科学では、天文学とこの科学のもう一つの極、すなわち発生学(胎生学)との間に橋を架けることは不可能である。一方では星空を研究し、他方では人間の胚の発生を研究している者だけが、現実を研究しているのである。

 発生学が示すものは、天文学が示すもののもう一方の極にすぎない。私たちは、ある意味で、星空がどのように連続した段階を示すかを見ながら、一方では星空を追い、他方では、結実した細胞の発達過程を追いかけなければならない。・・・天文学が扱わなければならない活動は発生学のプロセスの中にミニチュアとして現れる。

 このようなことを序言的に述べて、シュタイナーは、講演で、その独自の天文学宇宙論)を展開していく。それは、驚くべき内容である。

 私も上記の本に挑戦したものの、難解で、十分な理解は困難であるため、残念ながらここで多くを語ることはできない。何点かに絞って以下に触れることとする。

 シュタイナーは、生物の細胞は1つの宇宙であるとする。

 (細胞について)最も普通の形、すなわち球形で考えてみよう。この球形の形態は、薄い液状物質によって部分的に決定され、その中に繊細な枠組みが包まれている。しかし、球形とは何か?薄い液体物質は、まだ完全に自分自身に任されており、周囲から受けるインパルスに応じてふるまう。・・それは自分を取り巻く宇宙を映し出すのだ。球体の形をとるのは、それが宇宙全体を映し出すからである。・・球体の形をした細胞の一つひとつが、全宇宙の形のイメージにほかならないのだ。そして、その内部の枠組み、その形の一本一本の線は、宇宙全体の構造との関係によって条件づけられているのである。そもそも抽象的に表現すると、想像上の境界を持つ宇宙の球体を考えてみよう(図7)。

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その中に、ここに惑星があり、そこに惑星がある(a,a1)。これらの惑星は、それらを結ぶ線の方向に、互いに影響を及ぼし合うように働く。ここ(m)では-もちろん図式的に-セルが形成され、その輪郭は球を映し出す。ここでは、その枠の中に、一方の惑星が他方の惑星に働きかけることによって生じる固い部分がある。そして、ここに別の惑星の星座があり、それらを結ぶ線(b,b1)に沿って互いに作用し合っているとしよう。

 そして、ここにもまた別の惑星(c)があるかもしれない。この惑星には対応するものがない。このように、細胞の骨組みの形成全体に、惑星系、つまり全星系に存在する関係の反映が見られるのである。細胞の中に宇宙全体のイメージを見出すことができれば、この具体的な形を理解することができるのである。

 どうやら、人間は、頭に全天を、胴体内には太陽系をもっているようなのである。人間が小さな宇宙であるなら、その人間を宇宙とすると、今度は、それを構成する部分がまた小宇宙と見られるということらしい。ホログラムでは部分に全体の情報が含まれているという。まさに「神は細部に宿る」ということである。

 次に、まさに、その宇宙の初めとなる1つの細胞、つまり人の受精卵について考えると・・・

 今度は女性の卵子を手に取り、この卵子が宇宙の諸力をある内的バランスに導いたことを思い描いてみよう。宇宙の諸力は細胞の枠組みの中で形をとり、その中で、女性の生物全体によって支えられながら、ある意味で休息しているのだ。次に、男性の性細胞の影響がやってくる。これは大宇宙の力を休ませるのではなく、非常に特殊な力という意味で作用する。あたかも男性の性細胞が、静止状態にある女性の卵子に、まさにこの力の線(シュタイナー博士が黒板に示したもの)に沿って働くかのように。宇宙全体のイメージである細胞は、それによって、その小宇宙の形をもう一度放棄し、変化へと進むのである。まず、女性の卵子の中で、大宇宙は平和なイメージの中で休息する。そして、男性の性細胞を通して、女性はこの静止状態から引き裂かれ、再び特殊な活動の領域へと引き込まれ、運動するようになるのだ。

 休止している卵子精子が成長へのインパルスを与えるらしい。これは、現在の医学・生理学でもその通りで、精子の役割は、「男性側の遺伝子を卵子に持ち込んで、卵子の新しい生命活動のスイッチをオンにすること、それでけ」だという。ただ、シュタイナーによれば、スイッチをオンにするとは、宇宙の力が卵子に働き始めると言うことであろう。
 人間の体と宇宙には、照応関係があるとともに、細胞には全宇宙から力が働いており、それにより人体が形成されていくのである。

 シュタイナーは、植物の種子についても、そこから後に植物として生長していくのは、そこに宇宙からの働きが作用するからである、種子自体はカオス(混沌、形のない状態)の状態であり、それだからこそ、宇宙の作用を受けることができるというようなことを語っている。

 現代の常識としては、遺伝子やDNAは「人体の設計図」とされる。しかし、実は、それはあまりにも短絡した表現であり、正確ではない。医学博士の荻原清文氏は「遺伝子はあくまでもタンパク質の設計図にすぎません。すなわち、遺伝子から読み取られるタンパク質が脳細胞の形や配置のしかたを決めることはあっても、脳ができるときに1つ1つの脳細胞がお互いにどのように結合するかということまでは遺伝子は決められないのです」と述べている(ウィキペディア)。
 つまり、ビルを建てる例で考えれば、DNAはそれを構成するブロックの組成や構造を決めるが、ビル自体の設計図は別に存在するのである。その設計図とは、シュタイナーのいう、人の「ファントム」(原像、形態体)がそれに当たるだろう。それは肉体を構成する物質を組み立て、形成する超感覚的体である(濃縮したエーテル体とも言われるようである)。人体は、それをもとに、全宇宙の働きの中で形成されているのだ。

 ちなみに、このように人の誕生や成長には全宇宙が関わっており、脳は、人が生まれたときの星々の配置の鏡像になっているという。このような点から、占星術も単なる迷信と言うこともできないのである。実際、人智学派の中には、占星術を研究する方々も存在しているのだ。

 シュタイナーは、別の講演で、人の臓器と天体との関係を具体的に説明している。

 内部組織全体、すなわち消化器系に属する器官(この中には、肝臓、胆嚢、脾臓と呼ばれる器官も含まれなければならない)に対して、それのために、これらの器官が主に準備活動を行うシステム、すなわち血液システムが配置されている。しかし、この血液系に対して、一方では一方的な孤立を打ち消すように、他方では、これまで述べてきた内部システムと外部から内側に押し寄せるものとの間にバランスを作り出すように働く器官も配置されている。したがって、心臓を中心とする血液系が生体の中央に位置していると考えるなら、それがいかに正当なものであるか、これからわかるだろう。この血液と心臓の系に隣接して、一方では脾臓、肝臓、胆嚢系があり、他方では肺と腎臓系が連結している。この肺系と腎系の関係が極めて密接であることは、後ほど強調することにしよう。・・・

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秘教では脾臓の活動が土星の活動、肝臓の活動が木星の活動、胆嚢の活動が火星の活動として特徴づけられていることを、さらにはっきりと見ることができるだろう。秘教の知識は、ここで言及した活動に対してこれらの名称が選ばれたのと同じ根拠に基づいて、心臓とそれに属する血液系に、ちょうど惑星系において外の太陽がこの名称に値するものを見ているのである。肺系には、同じ原理でオカルティストが水星と呼ぶものが含まれており、腎臓系には金星と呼ぶに値するものが含まれている

 どうやら、人間は、頭に全天を、胴体内には太陽系をもっているようなのである。人間が小さな宇宙であるなら、その人間を構成する部分もまた小宇宙であり、人体はまさにホログラフィックである。存在するものは、それ単独で存在しているのではない。すべて相互作用の中にありつながっている。極小と極大は通じているのであろう。

 シュタイナーのこの講演に「学際的天文学」という名が付いているのは、天文学の対象は、それ単独でみるより生物学など他の学問の視点を取り入れるべきであるとの考えに基づく。宇宙(マクロコスモス)を知れば人間(ミクロコスモス)が、人間を知れば宇宙がわかるのである。